“謎の少年”、あらわる。2
さて、昨日の続き。
僕とその少年が待ち合わせたしたのは、とある公園でした。
その日は、夏というのにとても肌寒く、空全体をどよんとした雲が覆っていました。
待ち合わせ時間の10分前に、僕は指定された公園の東屋にあるベンチに腰掛けて、若干、途方に暮れていました。
いくらなんでも、遊び半分の少年の冷やかしに、ここまで付き合うことはないんじゃないか。
そもそも、ここでいくら待ったって、その少年は来ないんじゃないか。
仮に彼が来たところで、何の収穫もないんじゃないだろうか。
そんな僕の気持ちを見透かしたように、風はだんだん強くなり、上空の雲が次から次へと流れていきます。
5分待ったら、とっとと帰ろう。
と思った瞬間、目の前に、いきなり赤いMTBがあらわれました。
慌てて目線をあげると、そこには、ぺこりと頭を下げる少年の姿がありました。
「どうも」
「あっ、どうも」
僕は彼について、たぶん“アッチ系”の人だろう、と思っていました。
そうなると、話し合う言葉が早々に途切れてしまう。
ところが彼は、
全然違いました。
そして、
イケメンでした。
背はそんなに高くないんですが、たぶん、学校でモテるだろうな、という感じ。
「あれ?高校何年生?」
「2年生す」
「そっか。部活とかやってるの?」
「中学はサッカーやってたすけど、今は何も」
「そうなんだ。今は、夏休み?」
「そうす」
たどたどしい会話が続きます。
僕は“なんかすーすーうるせえな”と最初は思っていましたが、途中から気にならなくなりました。
その“す”を除けば、彼の口からボソボソと出る言葉が、実に説得力があったのです。
なんかこの少年、誰かに似てる。
誰?
この話し方。
あっ、
『秒速5センチメートル』のタカキくんに似てる(笑)。
そういや、髪形も似ている。顔はそうでもないけど、全体的な雰囲気はかなり近い。
何となく、勝手に腑に落ちたオレ。
今後は、自分の中では彼をタカキくんと呼ぼう。
そしていつしか僕は、タカキくんが何で小説を書こうと思ったのかを解き明かしたくて、インタビューするモードになっていきました。
仕事柄というか元からというか、僕は、相手が何かを訴えたいような目をしたり表情をすると、全力で引き出したくなる。
タカキくんは、目はキラキラしているけれど、時々、表情が暗くなる。
何となく、どこかがアンバランスな好青年、という気がしたのです。
こうなると、僕は止まりません。
結局、僕とタカキくんは、缶コーヒーを3つおかわりしながら、公園の東屋で、2時間半くらい話し続けました。
タカキくん(←って本名は違うけど)が、なぜ、連載に応募したのか。
まとめると、こういうことでした。
彼はもともと、三浦半島とは縁もゆかりもないところに住んでいましたが、高校に入ってわずか3カ月で三浦半島へ引越しすることになり、しかも学校も転校するということになってしまいました。
まさに、災難です。
右も左も分からない場所で、誰も友達がいない。
そんな時に出会ったのが、『三浦半島へ行こう!』でした。
自分の住む近所をいろいろと調べるうちに他のページも気になって、彼は、サイトに出ていた場所に、赤いMTBで行ってみることが楽しみになったそうです。
彼いわく、
「オレ、三浦半島へ行こう、超読んでますよ(笑)」
高校1年の夏(去年)は、かなりあちこちにMTBで行ったようです。
そして、三浦半島が大好きになった、と。
正直、こんなに僕のサイトを隅々まで読んでいる人に会ったのは、石井ちゃん以来です。感動しました。
彼は僕の別のブログも見つけてずっと読んでくれていて、更新再開が決まるやいなや、応募してくれたということです。
「いや、連載って言っても、高校生だし、偉そうなこと言えないし。でも三浦半島へ行こうのために何かしたくて」
とボソボソ言うタカキくん。
かなり、グッときました。
もう、泣きそうです。
小さいときから本が好きで今でもよく読んでいるから、小説だったら何とかなるんじゃないか、と。
はい、決定です。
こんなに「三浦半島へ行こう!」を愛してくれている人の気持ちを、無駄にするわけにはいきません。
彼はまだ高校2年で、何もロクに書いたことがありません。
でも、僕はプロです。
だから、目をキラキラさせながら何かをしたいというタカキくんを、僕は全力で支えます。
なんか、がぜん、面白くなってきました。
タカキくんとは今後、メールやスカイプで物語の内容を決めていき、そのうえで自由に書いてもらい、僕がいろいろとアドバイスする、ということにしました。
タカキくんのチャレンジは、僕の勉強でもあるのです。
なんか、金曜日は久しぶりにアツくなりました。
でもふと、帰り道で思いました。
なんか、この話、出来すぎてやしないか?
でもすぐ、思いました。
もし、騙されていても、いいや。
風呂敷は、大きければ大きいほど、いいんだから。
そういうわけで、タカキくん(←正式なペンネームはこれから本人が考えます)、参戦です。
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